どれだけ速く計算できるか。
どれだけ電気を食わないか。
どれだけ安くAIを動かせるか。
ところが先日、ちょっと変な話を見つけた。
「そのAIチップ、中古で売れる?」
お金を貸す側にとっては、これも重要らしい。
AIチップの話を読んでいたはずなのに、なぜか中古車査定みたいな話になってきた。
気になったので、調べてみた。
めちゃくちゃ速い。でも、一つの仕事しかできない
きっかけは、AMDが買収契約を発表したカナダのAIチップ企業、Taalasだった。
この会社が作った「HC1」というチップが、かなり尖っている。
ものすごく簡単に言えば、
特定のAIを動かすことに全振りしたチップ
だ。
一般的なGPUはいろいろなAIの計算に使える。
一方、HC1はMetaの「Llama 3.1」という特定のAIモデルを、チップそのものに組み込むような設計になっている。
その代わり、速い。
そして安い。
少なくともTaalasが公表している数字を見ると、かなり魅力的だ。
でも、もし数年後、誰もLlama 3.1を使わなくなったら?
別のAIに載せ替えて使うのは難しい。
そこで、ある記事が面白い問題を提起していた。
そんなチップを大量に買う会社に、お金を貸すとする。
3年後、その会社がお金を返せなくなったら。
そのチップ、誰に売れるのだろう?
AIチップにも、中古価格があるのか。
GPUって?
ChatGPTのようなAIが大量の計算をするときに使われているチップ。
NVIDIAが非常に強い分野です。
今回はひとまず、「いろいろなAI仕事に使える、高価な計算機」くらいで大丈夫。
本当にGPUを担保にお金を借りていた
「中古で売れるか」なんて、本当にそこまで重要なのだろうか。
調べてみると、本当にGPUを担保に巨額のお金を借りた会社があった。
CoreWeaveというAI向けクラウド企業だ。
大量のGPUを持ち、その計算能力をAI企業などに貸している。
このCoreWeaveは2023年、23億ドル規模の融資を受けた。
その融資を支える資産の一つがGPUだった。
GPUを買うためにお金を借り、そのGPUが借金の担保になる。
AIチップは計算する機械であると同時に、金融資産にもなっていた。
GPUにも「中古車査定」がある
さらにCoreWeaveが米SECに提出した資料を読むと、融資の計算にはGPUなどの設備の時間が経ったあとの価値も組み込まれている。
「このGPU、1億円で買いました」
と言っても、
「では1億円の担保ですね」
とはならない。
時間が経てば価値は下がるし、新しいGPUも出る。
数年後、この機械にはどれくらい価値が残っている?
も考える。
なんだか、中古車の査定に似ている。
最新のスポーツカーが時速300km出ても、中古車屋さんが最高速度だけを見て買い取るわけではない。
人気があるか。
数年後にも欲しい人がいるか。
AIチップにも、それと似た視点があるらしい。
でも、「中古で売れる?」だけでもなかった
貸す側には、もう一つ重要な質問がある。
「そのGPUを使う人は決まってます?」
たとえば、観光バス会社が10台のバスを買うためにお金を借りるとする。
「人気車種なので、いざとなったら中古で売れます」
と言えるのは強い。
でも、
「すでに大企業と5年間の送迎契約があります」
と言えたら、もっと安心だ。
AIデータセンターも少し似ている。
CoreWeaveの最近の大型融資では、GPUなどの設備だけでなく、その設備を使う顧客との契約も重要な役割を果たしている。
つまり貸す側は、
「あとでいくらで売れる?」
だけではなく、
「この機械は、ちゃんとお金を生みますか?」
まで見ている。
たこ焼き器は、フライパンに勝てるのか
ここで最初のHC1に戻る。
特定の仕事に全振りしたチップには、大きな魅力がある。
速く、安くできる可能性があるからだ。
たとえるなら、
GPUがフライパンなら、専用チップはたこ焼き器。
フライパンはいろいろな料理ができる。
たこ焼き器は、たこ焼きを作らせたら強い。
大量に作るなら、専用機の方が合理的かもしれない。
問題は、
みんなが突然、たこ焼きを食べなくなったときだ。
フライパンなら、明日から焼きそばを作ればいい。
たこ焼き器は……ちょっと困る。
AIチップでも似た問題が起こるかもしれない。
あるAIが人気の間は、専用チップが圧倒的に効率的かもしれない。
でも、そのAIが使われなくなったら?
別の仕事にも使えるGPUの方が、数年後にも買い手を見つけやすい可能性がある。
「速くて安いチップ」と「あとで売りやすいチップ」は、必ずしも同じではない。
ただし、ここはまだ仮説だ。
「専用チップだから融資で不利になる」と示す十分な公開データは、今のところ確認できていない。
だから、GPUが勝つ、専用チップが負ける、という話ではない。
面白いのは、AIチップにそんな比較軸まで生まれていることだ。
AIチップには、もう一つの性能がある?
AIチップのニュースを見ると、私たちは速さや消費電力、価格を見る。
でも、何千、何万というチップを並べるAIデータセンターを巨額のお金を借りながら作るなら、別の数字も効いてくる。
数年後、このチップにはいくらの価値が残っているのか。
そして、
そのチップを使って、お金を払ってくれる人はいるのか。
AIは、技術の競争だと思っていた。
でも巨大になればなるほど、AIは金融の世界ともつながっていく。
そこで求められる「性能」は、ベンチマークの数字だけではないのかもしれない。
「そのチップなら、お金を貸せます」
と言ってもらえること。
それもAIチップの、見えない性能になっていくのだろうか。
速くて、安ければ勝ち。
そう思っていたAIチップの世界が、中古車とたこ焼き器について考えたら、少し違って見えてきた。

